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・大学パラレル
・前期試験終了後、ゆきむらが阪神応援しに行きたいって言うから、さすけの実家に泊まって甲子園行く話
・ちなみにそれぞれの実家は「ゆきむら:長野(上田)」「さすけ:滋賀(甲賀)」
・甲賀は滋賀県南東部
・ゆきむらがびみょうな阪神ファンですが、理由は「虎だから」
・イチロー阪神来てくんねーかな
>>>
もう海は行ったしな、という話が最初だった。
「夏休みー!」
慶次が窓から首を突き出して叫んだ。
「どっか行きたーい! でもお金なーい! 遊びたーい!」
うわーん、と慶次の声に被るようにセミが鳴く。
「セミも行きたいって言ってるー!」
「言ってねーよ、うっせえバカ」
「バカって言う方がバカー! 知んねえかんな! 政宗、単位落とせバカー!」
「誰が落とすか。七日で死ねバカ」
「政宗がバカって言った──!」
シミだらけのカーテンは途中で結ばれて、アスレチックのロープのようだ。開け放しの窓からは、入道雲と山が見える。
夏だなあ、と思いながら、佐助はため息をついた。
「慶ちゃんうっさい」
「佐助っ」
「なに」
慶次は大型犬みたいな目でぷるぷるしている。
それをしかめっ面で見返して、佐助は、まったく、と眉を下げた。つくづく慶次は見栄えのする顔なのだ。笑えば笑顔が、泣けば泣き顔が、表情ひとつひとつがきらきらしてよく映える。くっそ、こいつイケメン枠だなあ、と佐助はなんだか自分の方が悪いことをしているような気がして、せつない気持ちになった。
「言っとくけど、おれさまちゃんと最終講義出てるから。慶ちゃん、あの授業、最終日がテストなの忘れてたでしょ」
慶次が、ふうっと黙り込んだ。
「……慶ちゃん?」
じいっと見つめ合って一呼吸、ぎゃーん、と慶次の声が時計台の広場に響いた。
「佐助までおれのことバカって言うー!」
「言ってないって」
しー、と佐助はソファの足許をかばった。
シールとガムテープの補強跡だらけのテーブルを押しのけたスペースで、幸村が眠っている。雑誌とプリントでいっぱいの床を掻き分けて、クッションと座布団で上手い具合に巣を作っていた。いつもなら気持ちよさそうに黙ってすうすうと寝ているのだが、今日ばかりは眉間にしわを寄せてうなされている。
バグみたいだな、と佐助は幸村の寝顔を眺めた。
「っていうかさ、今日幸村おれ来る前から寝てるけど、どうしたの?」
「昨日徹夜したんだってさ。っていうかタバコ吸うな」
無視された。
「ちょっと」
「廊下で吸ってんだろうが。ぐちゃぐちゃ言うな」
「あのさー、ここ廊下も禁煙なんだけど」
「いーんだよ、さっき喫煙とこの灰皿ここに持ってきたからよ。佐助、今日からここ喫煙スペースな」
「はあっ いいわけないじゃん、元親さんなにやってんの」
「息抜きだよ息抜きー」
疲れてんだよ、と元親が、思いっきり煙を吐き出した。
「おまえらは試験終わって万々歳かもしれねえけどよ、こちとらまだまだ地獄の入り口三丁目ってやつよ……。ちくしょう、なんで夏があるんだよ夏が……」
政宗が灰を落とした。
「夏なかったらおまえ確実に卒業できねえぞ元親」
「あってもできねえよ……」
煙が重く廊下に沈む。
「どっか行きてえな……」
「……元親てめえ逃げてんじゃねえぞ」
「もういまさら逃げられねえよ……」
沈黙が支配して、なんとなく、廊下の空気がよどんだ気がした。
「そうか……、そうだな……、逃げられねえな……」
「死ぬなら研究室で死ね」
「あー、いいねえ。あそこなら死んでも二秒でみっけられるわな……」
はあー、と珍しく眼帯二人が息の合ったしぐさでがっくりと肩を落とした。
セミも悲しげな声で、みっ、みー、と泣いて落っこちた。
なんてせつない声なんだ。みっ、みー。このセミ絶対メスに振られてる。
「なんか大変だねえ……」
爪先で小突くと、足許に転がった幸村が、びくうっと子犬のように跳ねた。
・前期試験終了後、ゆきむらが阪神応援しに行きたいって言うから、さすけの実家に泊まって甲子園行く話
・ちなみにそれぞれの実家は「ゆきむら:長野(上田)」「さすけ:滋賀(甲賀)」
・甲賀は滋賀県南東部
・ゆきむらがびみょうな阪神ファンですが、理由は「虎だから」
・イチロー阪神来てくんねーかな
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もう海は行ったしな、という話が最初だった。
「夏休みー!」
慶次が窓から首を突き出して叫んだ。
「どっか行きたーい! でもお金なーい! 遊びたーい!」
うわーん、と慶次の声に被るようにセミが鳴く。
「セミも行きたいって言ってるー!」
「言ってねーよ、うっせえバカ」
「バカって言う方がバカー! 知んねえかんな! 政宗、単位落とせバカー!」
「誰が落とすか。七日で死ねバカ」
「政宗がバカって言った──!」
シミだらけのカーテンは途中で結ばれて、アスレチックのロープのようだ。開け放しの窓からは、入道雲と山が見える。
夏だなあ、と思いながら、佐助はため息をついた。
「慶ちゃんうっさい」
「佐助っ」
「なに」
慶次は大型犬みたいな目でぷるぷるしている。
それをしかめっ面で見返して、佐助は、まったく、と眉を下げた。つくづく慶次は見栄えのする顔なのだ。笑えば笑顔が、泣けば泣き顔が、表情ひとつひとつがきらきらしてよく映える。くっそ、こいつイケメン枠だなあ、と佐助はなんだか自分の方が悪いことをしているような気がして、せつない気持ちになった。
「言っとくけど、おれさまちゃんと最終講義出てるから。慶ちゃん、あの授業、最終日がテストなの忘れてたでしょ」
慶次が、ふうっと黙り込んだ。
「……慶ちゃん?」
じいっと見つめ合って一呼吸、ぎゃーん、と慶次の声が時計台の広場に響いた。
「佐助までおれのことバカって言うー!」
「言ってないって」
しー、と佐助はソファの足許をかばった。
シールとガムテープの補強跡だらけのテーブルを押しのけたスペースで、幸村が眠っている。雑誌とプリントでいっぱいの床を掻き分けて、クッションと座布団で上手い具合に巣を作っていた。いつもなら気持ちよさそうに黙ってすうすうと寝ているのだが、今日ばかりは眉間にしわを寄せてうなされている。
バグみたいだな、と佐助は幸村の寝顔を眺めた。
「っていうかさ、今日幸村おれ来る前から寝てるけど、どうしたの?」
「昨日徹夜したんだってさ。っていうかタバコ吸うな」
無視された。
「ちょっと」
「廊下で吸ってんだろうが。ぐちゃぐちゃ言うな」
「あのさー、ここ廊下も禁煙なんだけど」
「いーんだよ、さっき喫煙とこの灰皿ここに持ってきたからよ。佐助、今日からここ喫煙スペースな」
「はあっ いいわけないじゃん、元親さんなにやってんの」
「息抜きだよ息抜きー」
疲れてんだよ、と元親が、思いっきり煙を吐き出した。
「おまえらは試験終わって万々歳かもしれねえけどよ、こちとらまだまだ地獄の入り口三丁目ってやつよ……。ちくしょう、なんで夏があるんだよ夏が……」
政宗が灰を落とした。
「夏なかったらおまえ確実に卒業できねえぞ元親」
「あってもできねえよ……」
煙が重く廊下に沈む。
「どっか行きてえな……」
「……元親てめえ逃げてんじゃねえぞ」
「もういまさら逃げられねえよ……」
沈黙が支配して、なんとなく、廊下の空気がよどんだ気がした。
「そうか……、そうだな……、逃げられねえな……」
「死ぬなら研究室で死ね」
「あー、いいねえ。あそこなら死んでも二秒でみっけられるわな……」
はあー、と珍しく眼帯二人が息の合ったしぐさでがっくりと肩を落とした。
セミも悲しげな声で、みっ、みー、と泣いて落っこちた。
なんてせつない声なんだ。みっ、みー。このセミ絶対メスに振られてる。
「なんか大変だねえ……」
爪先で小突くと、足許に転がった幸村が、びくうっと子犬のように跳ねた。
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